PINK FLOYDの主調音

 

PINK FLOYDの体験についてFLOYDの音楽を聴いた事のない人に説明する事は容易ではない。分かりやすい比喩で言うなら、夏目漱石の体験に似たところがあるといえるかもしれない。漱石の小説を読んで、初めて小説にはその筋以外に読者うったえてくるものがある事を知った様に、FLOYDの曲を聴いて音楽には聴いていい気分になれる事以外に意味がある事を知った。

 PINK FLOYD1966年頃より活動を開始した英国のロックバンドである。オリジナル・メンバーはシド・バレット(ギター)、ロジャー・ウォーターズ(ベース)、リチャード・ライト(キーボード)、ニック・メイスン(ドラムス)の4人で、19679月にファースト・アルバムである「夜明けの口笛吹き」が発表された。この当時はサイケデリッ クな曲を演奏するグループと思われていたようである。グループ結成当時のリーダーであったシド・バレットはこのアルバム発表後、精神障害を理由にグループを去り、変わってギタリストとしてデヴィッド・ギルモアが参加、以後、ロジャー・ウォーターズが中心となって曲がつくられてきた。1970年にAtom Heart Motherを発表し、日本でもPINK FLOYDという存在が知られるようになった。この曲は1曲20分を超え、オーケストラを使った大作で、当時のロックシーンにおいては画期的な作品であった。1973年にはアルバムDark Side of the Moonが発表された。このアルバムは疎外感をテーマにしたもので、全世界で驚異的な売上げを記録し(1400万枚以上)、発表後10年以上アルバムヒットチャートの200位以内にランクされ、ギネスブックに記載されている。1979年には2枚組アルバムThe Wallを発表、このアルバムは人と人の間に存在している壁をテーマにしたものだったが1300万セット以上が売れており、共産圏の国でも良く売れたようである。この曲は1990年ドイツ統一の際ベルリンの壁の前で演奏された。1983年アルバムFinal Cutを発表したが、その後ロジャー・ウォーターズと他の3人の関係が悪化し、グルーフは解散状態となった。そしてPINK FLOYDというグループ名の使用差し止めを主張するウォーターズと他の3人との裁判沙汰になり、最終的に3人が勝訴し、1987年にはA Momentary lapse of Reasonが発表された。しかし、このアルバムはサウンド的には確かにFLOYDのものであったが、以前のような主調音は聴かれなくなってしまっていた。

  FLOYDの音楽の特徴はいろいろあるが、まずメロディが美しい事が挙げられる。一般にロックというと音が大きく、どちらかというと喧しい音を鳴らすグループが多いが、FLOYDは比較的静かな曲が多く、恐らくロック史上最も旋律が綺麗なグループの一つである。また曲づくりは懲り過ぎと思えるほど繊細である。FLOYDの曲はなるべく良いオーディオセットで聴くべきと言われるが、よく聴いてみると随所に微妙な効果音が使われており、何度きいてもあたらしい発見が出来る。楽器以外の音が聴かれるのもFLOYDの特徴の一つである。風の音、心臓の鼓動、笑い声そして囁き。

 

    I’m not afraid of dying

    Why should I be afraid of dying

    There is no reason for it   

 

 これは杉村育生先生に聞き取って頂いたFLOYDの囁きの一つであるが、こういう言葉を聞こえるのか聞こえないのか分からないほどの小さな声で囁くのがFLOYDの美点の一つである。

 さてFLOYDの曲の最大の特徴は繰り返し聴きたくなる事である。そして何度も何度も聴いているうちに一つの主調音がある事に気づく。音楽はきいて気持ち良ければいいなどという事を言わせないものがFLOYDの音楽にはあるといった音楽評論家がいたが、確かにFLOYDの音楽は聞き手に考えさせるものがある。

 

  Comfortably Numb

     幼いころ

    僕は視界の片隅に

     飛び去る幻を見る事があったんだ

     振り返って見ると

     それは消えてしまうのでした

     それがどんなものだったのか

  今は思い出すことはできません

     幼かった僕も大人になり

     夢は消えてしまいました

    でもあの頃を思い出す時

   痺れた気持ちになるんだ

 

  小児期の入眠時幻覚をそのまま音楽にした様な曲であるが、こういう曲を聴くと確実にいい気分におちこむ事ができる。しかし何度も何度も聴いていると、美しい旋律も繊細な音も消え去り、「俺はなぜ生きているのだ」という問いだけが聞こえてくるのをどうする事もできない。

                                           (1991年に大学の教室の雑誌に書いたものです)

 

注1.2008年にリチャード・ライト(キーボード)が亡くなり、2014年にアルバム永遠(TOWA)を発表、これがFLOYD最後の作品となった。

注2.2022年の時点でアルバムDark Side of the Moonの売り上げは5000万枚以上になっているよう。

 

1. Comfortably Numb

私の知っている音楽の中で最も好きな曲である。

PINK FLOYDのコンサートの模様はユーチュブで沢山見ることが出来る。

Pink Floyd - Knebworth 1990 - は最もすぐれた演奏の一つである。

悲しげなキーボードの音色、ドレミレ・ドレミレ♪ドレミレ・ドレミレ♪という感じの副旋律、そして琴線に触れるデヴィッド・ギルモアのギター(他の誰もが再現不可能)。

涙が出るほど感動的である。

もう一つ Comfortably Numbの名演をあげるとすれば、ポーランド西部にあるヴロツワフ(Wrocław )にて開催されたコンサートである。1988年3月11日、名古屋レインボーホール(現、日本ガイシホール)での演奏は私にとって生涯忘れられないものであるが、Wrocław での演奏は地元のオーケストラが参加していて、深みのある味わいになっている(ピンクフロイドではなくデヴィッド・ギルモア単独のコンサートである)。ここでもギルモアの魔法のようなテクニックが発揮され、ギターソロのところでは感極まった観客の叫び声が聴こえる。もう一度、ピンクフロイドの公演に参加したいものである。

 

ヴロツワフでの演奏は削除されましたので、Live8での模様を取り上げました。ピンクフロイドのメンバーが全員集まったフロイドとしては最後の演奏です。仲違いしていたデヴィッド・ギルモアとロジャー・ウオーターズが同じステージに立った姿が印象的です。聴衆が一緒に歌っているシーンもあり楽しめます。

 

2.Brain damage

2番目に好きな音楽である。Dark Side of the Moonの発売(1973年)と同時にこのアルバムを購入、毎朝、この曲を聴いてから出かけたものだった。暗い感じの曲であるが、不思議と勇気づけられた。この音楽がなかったら、全然別の人生になっていたような気がする。デヴィッド・ギルモアの淡々としたギターフレーズから始まり、徐々に盛り上がり

And if the band you're in starts playing different tunes

I'll see you on the dark side of the moon

という歌詞とコーラス、演奏で最高潮に達する。歌詞の意味は「あなたが月の裏側のような暗い所にいる気分になった時、そこには私もいますよ」である。他人の気持ちなど分りっこないが、暗い気分は共感できる、「君は独りじゃないよ」と歌っている。

ロジャー・ウオーターズのコンサートです。

デヴィッド・ギルモアのBrain Damage

Dark Side of the Moonが出た当時、ピンクフロイドはなぜあんなに良い音が出るのかという事が囁かれていた。当時の説明は、きっと高価な機材を使っているからだろうというものだった。後年、種々の音楽機材が以前より安価に使えるようになっても、ピンクフロイドのような音は出なかった。多分、ギターの弾き方と機材の微妙な調整により独特の音を作り出しているのではないかと思っている。

このコンサートのスクリーンには懐かしい人々が大勢登場します。

And if your head explodes with dark forbodings too
I'll see you on the dark side of the moon

「あなたの胸が張り裂けそうになった時、私はあなたと共にいますよ」(私訳)